電子伝導に及ぼす磁性の影響は存外に大きく、いわゆるスピンエレクトロニクス分野では、巨大磁気抵抗(GMR)効果、トンネル磁気抵抗(TMR)効果、スピンアキュムレーション、スピントルク磁化反転など、ここ十数年の間に数々の新物理現象の発見が相次いでいる。これらスピンエレクトロニクスの発展には素子サイズの超微細化が重要な役割を果たしており、90年代の薄膜技術の進展による膜厚方向のナノスケール化と、主に今世紀に入って以降の微細加工技術による薄膜面内方向でのサブミクロン化が必要欠くべからざる要素であった。 本研究では、面内方向のナノスケール化を実現すべく、電子ビームの極小フォーカス機能を利用した、選択CVD法による面内寸法10nm以下のハードエッチングマスクの形成と、それによる機能性磁性多層薄膜のパターンニングを目指した。 本年度は、Al-N層をバリア層にもつTMR膜ならびに膜面垂直通電型(CPP-)GMR膜上に、電子ビーム援用選択CVD法によって形成したW(タングステン)製のナノピラーをマスクとしたイオンミリング法により、極小スピントロニクス素子の形成を行った。その結果、最小寸法径34nmの極小CPP-GMR素子を得た。得られたCPP-GMR素子の磁気抵抗効果を評価した結果、通常のフォトリソグラフィー法により加工した素子と同程度のMR特性を保持していること、ならびに電流誘起磁化反転現象の観測に成功した。また、比較対照として電子線リソグラフィー法によるリング形状のTMR素子加工を行い、その磁化反転過程を明確化した。さらにCPP-GMR素子における電流通電面積の更なる狭小化を目指し、積層膜構造中に1nm程度の通電領域を有する極薄酸化膜(NOL)の形成・評価技術についても検討を行い、島状成長させたAl-O膜により効率的に通電領域の制限が可能であることを明らかとした。
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