強磁性半導体量子ヘテロ構造においては、量子サイズ効果によって様々な新しい機能が実現されると期待されている。しかし、今まで強磁性半導体ヘテロ構造における伝導特性の研究においては、明瞭な量子サイズ効果の観測は報告されてこなかった。我々は、強磁性半導体GaMnAsを量子井戸とする量子ヘテロ構造において、量子サイズ効果およびそれに起因したトンネル磁気抵抗効果(TMR)の振動現象を初めて明瞭に観測した。また、4・4Luttinger-Kohn k・p Hamiltonian、pd交換相互作用行列、およびトランスファー行列法を用いて、実験的に得られたGaMnAs量子井戸の量子準位を良く説明できることが分かった。 MBE法を用いて、p-GaAs(001)基板上にGa0.95Mn0.05As(20 nm)/GaAs(1 nm)/A10.5Ga0.5As(4 nm)/GaAs(1 nm)/Ga0.95Mn0.05As(d nm)/GaAs(1 nm)/AlAS(4 nm)/Be:GaAs(100 nm)からなるGaMnAs量子井戸二重障壁ヘテロ構造を作製し、これらの素子において得られたd^2I/olV^2-V特性を測定した。すべての素子において、負のバイアス側、すなわち、正孔がp-GaAs基板から上部GaMnAs電極に向かって流れるバイアス側で、振動的な振る舞いが観測された。これらのピークは、量子井戸膜厚の増加に伴い、小さなバイアス側ヘシフトし、振動の周期は短くなっている。このような振動現象は、GaMnAs単一障壁磁気トンネル接合では見られなかった。従って、これらの振動は、GaMnAs量子井戸における量子サイズ効果に起因すると考えられる。これらの素子におけるTMRのバイアス依存性の測定を行ったところ、共鳴ピークに対応したバイアス電圧でTMRの増大が観測された。このように、本研究では、強磁性半導体ヘテロ構造において、量子サイズ効果とそれによるTMRの振動現象を初めて観測することに成功した。
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