研究概要 |
単電子回路を用いてホップフィールドネットワークに量子効果を導入してアナログコンピューティングのデバイスとすることを提案した。アナログコンピューティングは「与えられた数学の問題を相似の物理系に置き換え、その物理系の挙動を観察することで元の問題を解く」という計算アーキテクチャであり、組合せ最適化問題などの求解に適している。組合せ最適化問題には例として巡回セールスマン問題,ナップサック問題,最大充足問題などがある。いずれも工学的に広い応用分野を持っているが、従来の「アルゴリズム-ノイマン-ブール代数」の計算アーキテクチャでは計算時間を要して扱いにくい問題である。これに対してアナログコンピューティングでは、組合せ最適化問題のコスト関数を相似の物理系のエネルギー関数に置き換える。その物理系が状態遷移してエネルギー最小となった状態を観察して元の問題を解く。その求解プロセスは本質的に並列演算であり、問題のサイズによらない高速求解が期待できる。 しかしアナログコンピューティングには「エネルギー関数のローカルミニマム」という大問題があり、実際には得られた解が常に正解であるとは限らない。したがって、これまではアナログコンピューティングの並列性を十分に発揮することができなかった。そこで単電子回路を用いてホップフィールドネットワークに量子効果を導入することを提案した。単電子回路においては、2つかそれ以上の複数接合でトンネル事象が同時に(コヒーレントな結合として一体的に)起こる現象がある。これを「協同トンネル現象」という。単電子トンネル接合をしきい要素として使用し、そのネットワークにおける協同トンネル現象を利用することで、複数のしきい要素が同時に状態変化するようなネットワークを提案した。その動作をシミュレーション上で確認し、ローカルミニマム問題が生じないことを示した。
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