研究概要 |
本研究では量子情報機器実現の基礎とすべく,連続測定が可能な量子力学系を念頭に,量子ダイナミクスのための制御理論の構築とその実用を目指している.連続測定下における量子ダイナミクスとして,非線形確率微分方程式となるマスター方程式(SME)が得られている.本研究では主としてこのSMEを制御対象とし,制御論的観点からみた解析や制御系設計について研究を進める.なお本研究は,カリフォルニア工科大学の山本直樹との共同研究である. 本年度は次の3点についての結果を得た. SME解析のための行列表現に基づく演算子の導出 本研究テーマではこれまで,SMEをベクトル表現に変換し,制御論的な解析を行ってきた.この手法は,変換後,各種の条件導出までの計算が機械的に実行できるという利点を持つが,反面,SMEが本来有するダイナミクスの構造を複雑にし,見通しを悪くするという欠点をも有している.これに対しここでは,SMEの構造を保ったまま,可到達性や可観測性の解析を容易とする行列変数の演算子を導入した.またこの行列形式に対する演算子を用いて,SMEの可到達性/可観測性に関する幾つかの条件を得た. 量子スピン系の可到達性/可観測性解析 応用上重要となる量子スピン系に関して,これまで限られたクラスの可到達性/可観測性に関する諸結果を得ていたが,これをより一般的なクラスに拡張した.具体的にはエルミートとは限らないオブザーバブルの場合,また測定効率が1とは限らない系について,可到達空間・可観測空間の次元や位相について調べた. 低次元量子スピン系の安定化 量子コンピュータなどの実現には,量子力学系に特有の性質の一つ,つまり量子相関を利用することが前提となっているが,そのような量子状態を安定に生成できるかどうかは不明であった.ここでは2つのスピンからなる量子スピン系について,所望の量子状態,特に量子相関をもつ状態に確率収束する制御系を初めて提案した.
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