研究概要 |
河川と海域の接続部に位置し,両環境の影響を受ける徳島県吉野川河口部において26時間連続調査の結果から,懸濁物の挙動を明らかにし,堆積物の有機物起源の検討を行った.得られた主要な成果を下記に述べる. 潮汐変動に伴う炭素同位体比の変化 炭素同位体比(δ^<13>C値)と潮位の経時変化に関して,δ^<13>C値と潮汐変動との間には相関関係が認められなかった.また,δ^<13>C値と塩分の間にも相関関係は認められなかった.δ^<13>C値は全体的に海域側の地点の方が河川側の地点よりも高かった.各地点の上下層のδ^<13>C値を比べると,下層の方が上層より高い値を示しており,比重の重い海水が下層を通じて河口域に流入出していると考えられた.吉野川河口部では,懸濁物のδ^<13>C値は-27.5‰〜-19.7‰を示しており,陸域の植物由来の有機物や海産植物プランクトン由来の有機物が河口域を流出入していることが推測される. 炭素同位体比と陸起源有機物の割合の空間的分布 吉野川河口干潟域における堆積物のδ^<13>C値は,-26.0〜-22.3‰であり,陸起源有機物の割合は23〜83%を示した.また,最も下流に位置する2地点においても,陸起源有機物の割合が60%以上であった.以上のことから,吉野川河口干潟の多くの地点は,陸起源の有機物の割合が高く,陸起源の有機物で堆積物が構成されていることが伺える. 以上のことより,吉野川河口部における懸濁物の安定同位体比と潮位変動との間には対応関係は認められなかった.また,懸濁物の安定同位体比から陸域,海域由来の有機物が絶えず流出入していることが分かった.吉野川河口干潟における堆積物は陸起源の有機物の割合が高かった.干潟に生息する底生生物は泥中に生息しており,その堆積物は陸起源の有機物で構成されていることからも,本干潟の生態系は陸起源の有機物のエネルギーを利用して成立していると考えられた.
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