フラーレンは、60個以上の炭素が共有結合して構成される球状、またはチューブ状の閉じた構造をなす物質で、グラファイト、ダイヤモンドに次ぐ第三の同素体である。フラーレンはその化学的特性から、化学反応の触媒、薬物輸送媒体、半導体電子工学、医薬品、化粧品など様々な分野での使用が検討されている。これらのナノ素材は今後利用が広まり、環境中に広くばら撒かれる可能性が高い。昨年度の研究により、バックミンスターフラーレン(C60)はダイオキシン受容体を活性化しないこと、バルキーなDNA付加体は形成しないが、TA1535/pSK1002株を用いたumuテストや、枯草菌Rec-assay法において陽性を示すことを明らかにした。これらの結果は、C60が何らかのDNA損傷性を有していることを示唆するが、そのメカニズムまだあきらかではない。C60は紫外線照射により一重項酸素を精製することが知られているため、可視光および紫外線照射によりフラーレンのDNA損傷性が増強されるかどうか検討した。プラスミド水溶液とC60を混ぜ、紫外線を照射し、DNA鎖切断が増強されるかどうか調べたところ、DNA損傷性の顕著な増強は観察されなかった。
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