研究概要 |
1969年に建設された2階建て鉄骨建物1棟を対象に選び,構造形式,使用部材の特徴を踏まえながら,その柱脚に焦点をおきながら構造骨組の特徴と接合詳細を調査して当時の鉄骨建物の構造詳細と耐震性能を調べた.特に柱脚については外観検査とマクロ試験,各種材料試験を行い,実建物から採取した柱脚を新たに製作した鉄筋コンクリート基礎梁にアンカーボルトで固定して再現し,これを繰返し載荷してその破壊特性と塑性変形能力を調べた.また,別に行った柱梁接合部の載荷実験とあわせて対象建物の主体構造の塑性変形能力を実験で得,この結果に基づいて数値解析により建物全体の耐震性能を調査した.得られた知見は次のとおりである. 1)対象建物の柱は溝形鋼を2本抱き合わせてシーム溶接する,現在にはない1960年代特有の矩形断面である.柱の強軸曲げ方向,弱軸曲げ方向の2種類の載荷方向について,2体の柱脚試験体に一定鉛直荷重と繰返し水平荷重による2軸載荷実験を行った結果,強軸曲げ方向は0.16rad,弱軸曲げ方向は0.08radまでアンカーボルト降伏先行型の露出柱脚に典型的なスリップ型の履歴を呈した. 2)柱脚の破壊形式は,アンカーボルト,ベースプレート,柱脚部の塑性化を伴いながら,最後は柱とベースプレートの隅肉溶接の破断によるものである.破断に至るまでの変形能力は,露出柱脚の耐震性能として十分である. 3)柱脚実験と柱梁接合部実験から得た履歴に基づいて対象建物全体をモデル化し,静的増分解析および地震応答解析により耐震性能を検証した.層の保有水平耐力は構造特性係数0.32〜0.42に相当し,現在のレベル2地震波による最大層間変形角の応答は0.028rad,塑性率は2.26の結果を得,この要求性能に対して,載荷実験で得られた保有性能はかなり大きいため,本対象建物の耐震性能は安全性を確保する上で十分であると判断される.
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