研究概要 |
導電体に高周波電流を与えると,表層に電流が局在する現象,いわゆるSkin Effect(表皮効果)があらわれ,大電流パルス法はこれ応用するものである.電流印加の時間幅を極端に短くすれば,表層のみが瞬間的に溶解・凝固してアモルファス化する可能性がある. 本研究では次の2項目を目的とした.(1)金属棒材に高電圧な大電流をパルス的に与え,表層のみが溶解・急速凝固するような電圧やパルス時間幅等の条件を見出す.(2)TEM, STM等を用いて表層近傍の結晶構造を分析し,アモルファス相形成の当否を分析する. 最適な電流印加条件を得るためにMaxwell方程式および熱伝達方程式を用いて,表面層の溶解・凝固過程をシミュレートした.印加時間幅が10ナノ秒程度では,冷却速度は従来のスピンリングを用いた急冷凝固法に比べて4桁も大きな10^<9〜12>K/secに達することがシミュレーションにより得られ,表面層のアモルファス化は十分可能であると結論された.実験による検証として,ロシアのサロフ市にあるResearch Institute of Experimental Physicsのパルス発生装置を用いてオーステナイト系ステンレス鋼の表面アモルファス化を試みた.SEM観察の結果表面層が溶解・凝固した痕跡を見出した.続いて,試験片の表面層と内部のTEM観察を行った結果,表面層5ミクロンの領域にはアモルファス特有の電子線回折環が,そして5〜20ミクロンにはアモルファス母相中に出現した結晶核を示唆する回折環が観察された.また印加電圧が低い場合表層部には長微細な双晶が多数観察され,その双晶の幅は10ナノメートル程度であった.以上のことから,表皮効果による金属表面のアモルファス化のシミュレーションの有効性と表面のアモルファス層やナノクリスタル化が「新しい」表面処理の手法として現実性を持つことが明らかとなった.
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