研究概要 |
介在物の大きさや組織・形態を制御する技術を確立するには、介在物の生成条件とそれに対応した組織や組成を正確に把握し、生成機構を詳細に解明する必要がある。そのためには微少介在物の相同定やその組成分布の分析が不可欠である。しかし、あまり有効な手段がなく、介在物研究の大きな障害となっていた。後方電子散乱法(EBSD)による反射パターンは結晶構造に対応した固有のパターンとなる。そのため、この解析により0.1μm径程度までの領域での相同定が可能となる。本研究ではEBSDを適用し、微少介在物の相同定を行う事を目的とした。 主なチタン酸化物としてTiO_2,'Ti_3O_5',Ti_2O_3,'TiO'の5つが知られているが、幸いにも、これらの酸化物の結晶構造は異なっている。そのためEBSDにより測定した菊池パターンを解析することにより測定点におけるチタン酸化物の相同定が可能となる。上に示したチタン酸化物の異なる構造に対応するEBSDパターン解析のための情報は提供されていないため、当研究室におてASTEMの結晶構造データベースに基づいて作成した。このEBSD構造情報に基づき、溶融Fe-Ti合金において鋼中の酸素濃度に応じて生成するTi酸化物の相の同定をEBSDを用いて行った。この時のFe-SEMの電子ビーム径は約0.1μmである。 この実験により、1873Kにおいて溶鉄中のTi濃度が約7mass%以上では'TiO'が、約7〜0.4mass%ではTi_2O_3、約0.4mass%以下ではTi_3O_5が対応する平衡チタン酸化物であることを確認した(ISIJに投稿中)。EBSD測定の結果によりTi酸化物の異なる種々の相を高い信頼性で同定できることを確認した。このことは、溶融Fe-Ti合金中のTi濃度に対応して異なるチタン酸化物が平衡安定相として存在することを示している。 介在物研究には平衡論的な研究だけでなく、その組成分布や非平衡相の存在の検討など物理化学的な研究を重要である。しかしこれまでその検討を容易に行う手法がなかったため多くの困難があったが、EBSDを用いることにより、生成介在物の相やその分布を正確に把握し、生成機構を詳細に解明する事が可能であることを明確にした。今後、本研究をさらに発展させ、ナノオーダーの各種微少介在物の研究に適用していく。
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