研究課題
後方電子散乱法(EBSD)は主に多結晶体結晶粒の方位測定・解析に用いられている。本研究ではEBSDが持っ高分解能で結晶構造を確定できるもう一つの特性を生かして微少領域の物質同定を行う表面分析手法のための基盤技術の確立を目的とした。従来の表面分析法のほとんどが測定点の相対的な元素比を測定するもので、複雑な化学式を持つ物質の同定は困難である。本研究ではEBSDが持つ測定点での菊池パターンに基づき構造情報が得られる特性を生かし、EBSDを方位測定でなく、微少領域における物質構造同定に用いる技術の開発をおこなった。その有効性を実証するためEBSDを用いて、これまで困難であった鋼中に存在する初期生成微少介在物(0.1μm程度)の準安定相も含む物質同定をおこない、溶融Fe-Ti合金に存在する100nm程度のまでにいたる微少介在物の評価を行い。TiNや」各種Ti酸化物の同定が可能なことを実証した。また溶融Fe-Ti-O合金のTi-O脱酸平衡の正確な熱力学パラメーターを求めるには溶融合金を保持しているルツボと溶融合金界面に生成してる平衡Ti酸化物相を決定する必要があるがその厚さは数μであり、従来のX線解析などでは困難であった。しかし、本研究に於いてEBSDを適用することにより、その正確なTi酸化物相の同定が可能となり、その測定に基づき書くTi濃度に対応する信頼性の高い溶融Fe-Ti-O合金のTi-O脱酸平衡の各種熱力学的パラメーターを提案した。高品位鋼の製造には介在物の制御技術が重要である。介在物の生成条件や特性を正確に把握するためには、生成機構を詳細に解明する必要がある。しかし介在物制御に重要な初期生成介在物の情報、例えば準安定相の存在、0.1μm程度の微少介在物内の組成分布や構造などはこれまで明確にされてこなかった。しかし本研究で確立したEBSD法を用いることにより微少介在物組成を評価する事が可能となることを実証した。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (2件)
ISIJ International vol.46,No.7
ページ: 987-995
ページ: 996-1005