研究概要 |
アデノウイルスベクターは患者の細胞に目的の遺伝子を導入する遺伝子治療用のベクターとして多用されてきており,高力価のアデノウイルスベクターを効率良く大量生産可能な技術の確立が急務となっている.アデノウイルスベクターの生産は,ヒト胎児腎臓細胞由来の293細胞などのベクター産生細胞をあらかじめ培養し増殖させた後,これにアデノウイルスベクターを感染することによって行われる.本研究は,アデノウイルスベクターを高生産可能なバイオリアクタープロセスを開発することを目的として,基盤となる技術の確立を目指すものである.本年度はまず,293細胞の増殖特性の解明を試みた.293細胞は本来培養器壁に付着伸展した状態で生育する付着性の細胞であるが,浮遊懸濁状態で生育しうるように馴化したアデノウイルスベクター未感染の293細胞を用いて,静置培養および振とう培養を行い,増殖曲線を作成した.その結果,振とう培養下における293細胞の比増殖速度や到達細胞密度は,静置培養下において得られた値と比べて同等以上であり,バイオリアクターを用いた浮遊懸濁状態での293細胞の大量培養の可能性が示唆された.また,比較的孔径の小さい多孔性粒子とともに振とう培養を行うことにより293細胞を粒子内に播種し,適時培地交換しながら培養を継続した.粒子内に捕捉された細胞の密度を生細胞によるテトラゾリウム塩の還元活性に基づき評価したところ,粒子1cm^3あたり10^7cells以上の高密度の固定化培養が達成できることがわかった.
|