研究課題/領域番号 |
17656306
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
馬場 祐治 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (90360403)
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研究分担者 |
関口 哲弘 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 研究副主幹 (20373235)
下山 巌 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 研究職 (10425572)
岩瀬 彰宏 大阪府立大学, 工学研究科マテリアル工学部門, 教授 (60343919)
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キーワード | 放射線 / 高密度励起 / 吸着 / 極低温 / 表面化学反応 / 質量分析 / 光電子分光 / 放射光 |
研究概要 |
本課題は、放射線照射によって化学結合が新たに生成して新しい物質が合成される可能性を探りその反応機構を解明することを目的とした。具体的には、極低温で凝縮した軽分子にイオンビームを照射し、脱離種と反応生成物の分析を行った。このような反応は宇宙空間において惑星表面や彗星表面で日常的に起こっており、自然界におけるアミノ酸などの生命関連分子の起源とも言われているが、分子生成の有無や反応機構はわかっていない。平成18年度までの研究において、窒素、メタンなどの凝縮系にkeV領域のヘリウムイオンを照射すると、種々のファンデアワールスクラスターイオンが脱離することを見出した。これらの成果に基づき、平成19年度は、吸着層の数を正確に制御したメタン、重水素化メタンなどについて、ヘリウムイオン照射による正イオンおよび中性分子の脱離について検討し以下の結果を得た。1)照射によりファンデアワールスクラスターだけでなく、アセチレン、エチレンなど明確な共有結合を持つ正イオン、中性分子が生成する。2)数層までの薄い吸着層からは主にモノマーイオンのみが脱離するが、吸着層数が増えるに従って分子量のより大きなイオンが脱離する。 これらの実験結果を、ヘリウムイオンのエネルギー損失過程に関するモンテカルロシミュレーション計算と比較した結果、モノマーイオンは電子的エネルギー損失にともなう1電子励起過程により脱離するのに対し、アセチレン、エチレンなど分子量の大きなイオンは原子核衝突による高密度励起の結果生成することを明らかにした。 これらの成果は、宇宙環境下など極低温における放射線誘起分子生成反応の存在を明確に示すとともに、その反応機構を明らかにした点で重要な成果と考える。ファンデアワールス分子だけでなく、共有結合をもつ種々の有機分子が生成することを見出したことは、放射線を使った極低温からの新物質合成に道を拓くものと考える。
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