本研究の目的は、アイソトポマーによる新しいトレーサー実験法の開発を通して、動物の餌代謝を全く新しい角度から解析することである。アイソトポマーの研究では、同じ種類の分子でも分子内の同位体核種の配列パターンが異なる分子を1つ1つ別の分子として認識する。一般に、そうした個別のアイソトポマー分子の種類数は、天文学的な数に上るが、本研究では、主に実験操作上の制約から、^<13>C-100%と^<13>C-0%のそれぞれの培地で育てた藻類を混合した、混合ラベル飼料を動物に与えることで、体内での餌代謝に伴うアイソトポマー組成の変動を解析することを目指した。それにより、第一に、餌分子が単に動物体内に入っただけなのか、或いは代謝過程に組み込まれたのかの区別ができ、第二に、代謝生成物のアイソトポマー組成の詳しい解析を通して、体内で生じている生化学的な反応メカニズムが解析できる可能がある。本研究ではまず、これらの混合ラベル飼料を動物が摂取した際に、「代謝生成物のアイソトポマー組成がどうなるか」、「その組成は生物の生理状態に応じてどのように変化するか」等を理解することが大事になる。本年度は、昨年度に引き続き、動物プランクトンなどのモデル動物の飼育環境に問題が発生し、実験生物が死滅するなどして、十分な混合ラベル試料の添加実験が行えなかった。そこで本年度は、分析試薬の購入や実験環境の整備を進める傍ら、動物体内のアミノ酸、脂肪酸などのアイソトポマーの組成が、それらが生合成経路に取り込まれ、反応が進む中で、どのように変わっていくかについてのモデル・シミュレーション研究を主に行った。来年度に向けて、再度、培養法、混合ラベル試料の添加方法等の改善の検討を行っているところである。
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