魚類において、親が、卵や仔を自分の子と他魚の子と区別する能力があるかどうかは、親の子の世話への進化を考える上で大変重要な問題である。本研究課題ではサケ科魚類オススニーカーの産卵中にみられる食卵において、それが自分の卵かどうかを区別しているかどうか(差別的食卵)を明らかにすることを目的とした。本年度は以下の二つの観察を行った。(1)然別湖産オショロコマを採集し、北海道大学苫小牧研究林にある大型水槽において産卵行動を観察した。しかし、スニーカーによる顕著な食卵行動を観察することはできなかった。さらに人工的に受精させた卵をスニーカーに食卵させたのち、ただちに胃を切開し取り出した卵の生死を確かめた(N=3)が、いずれも発生途中で死亡した。(2)北海道然別湖の流入河川において、回遊型および残留型サクラマス(Oncorhynchus masou)の産卵行動を観察した。産卵期に簗と電気ショッカーを用いて親魚を捕獲し、リボシタグによって個体識別を行ったのち放流した。河川の土手から目視およびビデオによって産卵行動の観察を行った。産卵後、遺伝的解析のために、卵を研究室において孵化させた。繁殖に参加した残留型の数が多いほど、スニークに成功した残留型の数も多かった。また、産卵終了直後に食卵行動を示す残留型も多くなった。サクラマスのスニーカーが食卵行動を示すことが明らかとなった。現在、受精に成功したスニーカーがその後食卵行動に参加したのかを、マイクロサテライトDNA解析によって親子判別解析を行っているところである。来年度は引き続き遺伝的解析を進めるとともに、サクラマスを野外での産卵行動の観察を行う予定である。
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