親ラメットと遺伝的に同一の子ラメットを栄養繁殖によって作り出すクローナル植物の個体群では、空間的・生理的に独立したラメットと遺伝的個体が一致するとは限らない。そこで、クローナル植物の個体群動態を検討するためには、動物の個体群動態研究と同様に、ラメット個体群中に何個体の遺伝的個体が存在するかを推定する必要がある。しかし、多年生植物の個体群動態の研究は、分子マーカーによる遺伝的個体の識別が容易になった現在も、ほとんど進んでいない。それは、調査対象としたラメット群に遺伝的個体が何個体存在するかは分子マーカーにより解析できても、対象としている個体群全体の中にいくつの遺伝的個体が存在するかを推定する術が無いためである。そこで、本研究は、動物個体群の個体数推定においてしばしば用いられる再捕獲法(capture-mark-recapture)法をクローナル植物のラメット個体群に用いる。分子マーカーによる個体識別は、再捕獲法における個体特有のマークと同様に使える点で、原理的には、ラメット個体群中の遺伝的個体数推定が可能となる。この有効性を本研究ではシミュレーションモデルによって検証した。検証の結果、本手法による遺伝的個体数推定の精度は、極めて高いことが明らかになった。また、推定値の分散の比較から、再捕獲による個体数推定法には、高次のジャックナイフ法を用いると、より高精度の推定が可能であった。高次のジャックナイフ推定には、200程度のサンプル数で十分なこともシミュレーションにより確かめられた。
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