研究概要 |
黄色植物(ストラメノパイル)に属するフシナシミドロ(Vaucheria)で光形態形成反応を引き起こすbZIP-LOV青色光受容体を発見した.フシナシミドロmRNAからLOVドメインを持つ5-6個のcDNA断片を得,2個の全長cDNAの塩基配列と翻訳されるタンパクのアミノ酸配列を決定した.その2個のタンパク質は互いによく似ており,中程に1個の転写因子ドメインであるbZIP(塩基性領域ロイシンジッパー)と,その後方(3'側)にLOVドメインを1個もった比較的短い(それぞれ348,343個のアミノ酸)新奇のLOVタンパクであった. 多核細胞フシナシミドロでは形質転換法が使えないが,RNAiが使えることがわかった.両タンパクのmRNAをもとにin vitroで2本鎖RNA(dsRNA)を作り,それを混合して,約1cmのフシナシミドロ断片に注射した.dsRNAは多核細胞全体に行き渡り,約1週間後に再生してくる原形質の連続した枝にも届いて,そこでの両タンパクの生産を止めていることは再生した枝の先端成長が遅滞し異常な形態を示すことから確認できた.6か月後,青色光照射域からの枝発生(光形態形成)能を完全に失った細胞からはmRNAが検出されなかった.これはRNAiが長期間持続することと,この2個のタンパクがこの光形態形成の受容体であることを示す.これらをVaucheriochrome1と2(VC1,VC2)と名付けた.次いで,VC1,VC2の機能を探るため,それらを別個に破壊した.極めて興味深いことに,VC2を破壊すると,注射1か月後に生殖器官が頻出した.それらはやがて枝に戻ったが,このことはVC2は細胞から発生した突起が生殖器官になることなく,無性の枝として発達すべく働く切換スイッチであることを示唆する.VC1,VC2にパラログがケイ藻ゲノムに存在していたことから,VCはストラメノパイル共通の青色光受容体であるかも知れない.これを解明するため,褐藻ヒバマタ(Fucus),コンブ(Laminaria),卵菌ミズカビ(Saprolegnia)などからVCを探索している.
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