研究概要 |
植物ゲノムで配列のシャフリング(DNA鎖の混ぜ合わせ=切断・交差・組換え、構造遺伝子の挿入・転移など)が生じたとき、それまで全く転写物の見られなかったDNA領域に突如として新規の転写産物が出現することがある。言い換えれば、プロモーターの無かったはずの領域で転写が始まる、ということである。このような現象が、本研究で対象とする「転写単位の新生」である。この現象は植物のゲノムや遺伝子システムの可塑性やダイナミズムを左右する重要な要因と考えられるが、これまでまとまった研究は行われていない。本研究では、この現象を定量的に解析する実験系を確立し、この現象の性質とその背後にある分子機構について、解析の端緒を開くことを目的としている。本年度の研究進捗状況は以下の通りである。 (1)プロモーターのないマーカー遺伝子をシロイヌナズナの核にランダムに挿入し、野生型の転写単位とは無関係に挿入マーカーが発現した植物系統をT2,T3世代で同定し、新生プロモーターの候補を多数収集した。 (2)それらの新生プロモーター候補について、周辺転写地図の作成等の詳細な解析を行うため、それぞれの挿入系統から種子(主にT4世代)を大量に採取した。 (3)T4世代の幼植物から核酸を抽出し、解析を進めているが、ノーザンハイブリダイゼーションやRNase保護実験などで得られるシグナルの強度が、しばしば、T2,T3世代の解析結果から予想されていたシグナル強度に遥かに及ばない。 (4)現在、マーカー挿入部位周辺のクロマチンに、T4世代でエピジェネティックな発現抑制が生じた可能性などを含めて、上記の差違が生じた原因を検討している。
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