本研究は、褐藻類の遊泳性の生殖細胞(遊泳細胞)が有する走光性反応や走化性反応について、そのシグナル受容やシグナル変換の解明を鞭毛構成タンパク質の構造と機能の解析から行うことを目的としている。これまでの研究において、褐藻カヤモノリの遊泳細胞がもつ2本の異型の鞭毛のうち鞭毛全体が緑色自家蛍光を発する後鞭毛および後鞭毛基部の膨潤部に存在すると推定され、走光性反応の光受容体の有力候補となっているフラビンタンパク質について生化学的に分離精製を行った。その結果、酵母で最初に発見されているOLD YELLOW ENZYMEと高い類似性を示す分子量41kDのFMN結合タンパク質を同定した。今年度はこのタンパク質に対するポリクローナル抗体を用いて細胞内の局在性を解析するとともに、異種発現タンパク質を用いた基礎的な分光学的解析を行った。前者の課題については遊泳細胞の状態、固定条件、抗体の特異性などについての問題点を克服しつつ解析を続けている。また後者の課題についてはフラビンを結合した発現タンパク質が比較的容易に得られ、吸収スペクトルなどの解析を行った。また既知の結晶構造などを用いたホモロジーモデリングや系統解析なども進めた。 一方、鞭毛に含まれるフラビンタンパク質を分離・精製する過程で、鞭毛画分に高分子量の新規タンパク質が豊富に存在することに気がつき、その同定も行った。その結果、珪藻の有性生殖の誘導に伴い発現する遺伝子と相同の遺伝子がコードするタンパク質であることが判明した。さらに抗体を用いた局在性解析から、褐藻の遊泳細胞の前鞭毛に付属する多数の規則的に配列する小毛(マスチゴネマ)を構成するタンパク質の一つであることが判明した。この発見は、走光性や走化性も含め鞭毛運動やその制御、あるいは鞭毛の未知の機能の解明など、新たな研究の発展につながる成果である。
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