研究課題/領域番号 |
17657019
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
酒井 敦 奈良女子大学, 理学部, 助教授 (30235098)
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研究分担者 |
佐藤 宏明 奈良女子大学, 理学部, 助教授 (20196265)
柴田 叡弌 名古屋大学, 大学院生命農学研究科, 教授 (30252282)
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キーワード | ミヤコザサ / ニホンジカ / 大台ケ原 / 食害 / 接触形態形成 / 補償光合成 / 対被食戦略 / 窒素 |
研究概要 |
本研究では大台ヶ原山においてニホンジカによる被食圧下で分布を拡大しつつあるミヤコザサを材料に、防鹿柵あるいはプロテクトケージ内外のササの性質を比較することによってその対被食戦略を検討した。被食圧から解放されたササは例外なく大型化し、窒素含量および光合成能力が低下した。このことから逆に、被食圧に対するササの応答は小型化、窒素含量および光合成能力の向上であると結論できる。防鹿柵外のササは実際の食害の有無に関わらず小型化していることから、傷害は小型化の誘導に必須ではない。また、プロテクトケージ内のササは周囲とは不連続に大型化することから、地下茎や揮発性物質を通じた情報伝達の可能性も低い。従って、ササは個々の地上稈に対して加えられる接触や踏み付けなどの物理的刺激に反応して小型化している(接触形態形成)と推察された。プロテクトケージを時期をずらして設置することによって様々なサイズのササを作成すると、植物体サイズと葉の窒素含量との間に負の、窒素含量と光合成能力との間には正の相関が認められた。小型化したササは葉だけではなく全器官において窒素含量が増大していることから、利用可能な窒素資源の量がほぼ一定のまま植物体が小型化した結果、植物体中の窒素濃度が必然的に増大したという可能性が示唆された。また、小型化したササは含窒素光合成関連装置の含量も高く、全窒素含量の増大は光合成関連装置の増加を介して光合成能力を向上させている可能性が示唆された。以上の結果から、ミヤコザサは被食圧下では接触刺激を認識して小型化し、集中的な食害を回避するとともに、小型化>植物体各部の窒素濃度増大>光合成関連装置の増加>光合成能力の向上、という連鎖反応を通じて葉面積の縮小による光合成物質生産の低下を補償している可能性が示唆された。現在、こうした連鎖反応を実験的に再現するため、ミヤコザサの栽培を開始している。
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