研究課題
受精卵は卵割を繰り返して単細胞から多細胞へと移行する。受精卵の卵割を、単細胞生物から多細砲へと移行した進化過程のモデルとして扱い、多細胞化が、単細胞に比べて、熱雑音に埋もれた微弱な観測信号の信頼性(情報量)を加算平均化によって改善していることを実証する。これまでに、コオロギの気流感覚細胞は分子1個の平均運動エネルギー【approximately equal】K_BT(常温で約4×10-21Joule)に応答できることを実測し、この熱雑音感受性が神経系の基本構造である並列伝送回路の起源であることを示した。ここで重要なのは、単一分子の熱揺動エネルギーを検出する程の高感度は進化の結果ではなく拘束である、という結論にある。その根拠は、もし細胞がかつて低かった感度を上げてK_BT領域に近づいたのなら、自ら熱雑音の中に埋もれて行ったことになり、観測装置としての自殺行為に他ならないからである。時間的空間的に偏った資源環境は、情報伝送速度を上げる向きの淘汰圧として働く。生命誕生前の原始のスープで利用可能なエネルギーは熱揺らぎ幅左_BTの程度であり、このK_BTの程度のエネルギー差を観測して情報(負のエントロピー)に変換する非平衡系が生命である。生命の起源にとって、K_BTの程度のエネルギー感度は必然である。細胞表面に複数のレセプター分子を並べることも加算平均化になる。観測装置としての細胞が複数結合した加算平均化が生存価を増す。多細胞生物への進化は、単細胞生物に比べて、熱雑音に埋もれた微弱な観測信号の信頼性(情報量)を加算平均化によって改善した例である、ことの情報理論的検証を進めた。次年度は卵割後の割球では、膜電位の信号(共通成分)対雑音比が改善されることの計測を進める。
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