本年度は、まず昨年同定した補体系の分子であるC6に相同性をもつ分子の精巣における発現を調べた。その結果、シグナルは弱いながらも、精子形成期の後期細胞と、精巣ろ胞間の遊離細胞にC6様分子の発現が認められた。昨年得られた精子頭部への本分子の局在結果と合わせると、本分子が受精における精子-卵相互作用に関与することを示唆している。C6様分子の存在量を知るために、精子の全タンパク質を二次元電気泳動により分離し、質量分析計により同定することを試みたが、同定には至らなかった。一方、ホヤの受精と自家不和合性の関連をさらに詳細に知る目的で、ほ乳類の精巣-癌抗原SP17に相同性のある分子の検索を行った。その結果、SP17と相同性を持つ領域とそのC末端に長い繰り返し領域をもつユニークなタンパク質が精子のTriton可溶性画分に存在することが明らかになった。複数のcDNAクローンの解析から、本タンパク質の繰り返し領域に多型が存在すること、選択的スプライシングによると思われる複数のアイソフォームが存在すること、成体の精巣以外の組織において、SP17と相同性のあるN末端領域を欠くスプライスバリアントが発現していることが明らかになった。ホヤにおける明確な選択的スプライシングに関しては、最初の報告となる。さらに、精子における局在を調べたところ、放精される前は頭部の一部と鞭毛の基部に局在しているが、卵から放出される精子活性化物質により、局在が変化し、精子全体に分布するようになることが明らかになった。以上の結果は、本分子が受精時の精子機能に深く関与していることを示唆している。
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