研究課題
一般に中枢神経系における情報処理は、ニューロン間のシナプス結合によって形成される神経回路において正確なアルゴリズムにしたがって行われる。一方、動物は一般に外界からの入力に対して常に一定した応答を示すのではなく、多様な環境の変化に対応して適応的かつ合目的的に柔軟に応答する能力を備えている。我々は、このとき神経回路機能に柔軟性を持たせる重要な役割を演じているのがペプチド神経系であると考えている。申請者の従来の研究結果から、終神経系において産生されるペプチド、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)は、実際にはホルモンとしては働かず脳内の広範囲に神経突起を投射し、そこからGnRHを放出して神経修飾作用を持つことが示唆されている。さらに、GnRHによる神経修飾作用は、動物行動の動機付け調節という重要な脳内機構の基礎であろうと考えられる行動学的証拠を得つつある。そこで本研究では、遺伝子導入を用いた特異的ニューロン破壊やテレメトリーといった先端技術を用いて動機付け調節の神経機構の解明に迫ることを目的とした。本年度は、行動中の動物の終神経GnRHニューロンからのテレメトリーを用いたニューロン活動記録を行うための装置の開発とin vitro脳標本を用いた予備実験を行った。研究協力者である工藤雄一博士が従来のテレメトリー装置をさらに軽量化し、自重1グラム以下のデバイスの作成に成功した。そこで、ドワーフグーラミーのin vitro全脳標本から終神経GnRHニューロンの単一ニューロンのペースメーカー活動をステンレス電極で誘導し、それを今回開発したテレメトリー装置に接続してFM波に乗せて信号を遠隔記録したところ、in vitro脳標本で記録できるのとほぼ同一の信号を記録することができた。今後は、この装置を水中テレメトリーができるように改良し、通信条件のテストと実験動物への発信器装着を試験する。
すべて 2007
すべて 雑誌論文 (5件)
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21世紀の動物科学 第8巻 行動とコミュニケーション 培風館 (印刷中)