研究概要 |
ADAR(RNA特異的アデノシンデアミナーゼ)は特定の蛋白質のpre-mRNAにおいてA(アデノシン)からI(イノシン)への変換を引き起こすことにより,RNA編集を行う酵素である.このRNA編集により,神経系のグルタミン酸受容体やセロトニン受容体などに機能の異なるアイソフォームが生ずる.またインターフェロン誘導性のADAR1はウイルスRNAにRNA編集を引き起こすことにより,RNAの不活性化や崩壊を誘導して,生体をウイルス感染から防御している可能性が考えられている.しかしこれまでADAR活性の制御機構はまったく不明である.私たちが同定した低分子量G蛋白質M-Rasは,活性状態のときにのみADAR1に結合した.また活性状態にかかわらずADAR2に結合した.一方,他のRasはADARには結合しなかった.そこで本研究ではさらに,M-RasがADARのRNA編集活性をどのように制御しているかを明らかにすることを目的とした.ADAR1(p150)は細胞質に局在していたのに対し,ADAR1(p110)とADAR2は核小体に局在していた.NIH3T3細胞にトランスフェクトしたADAR2はグルタミン酸受容体GluR2のQ/R部位のRNA編集を行った.この細胞にさらに野生型,恒常的活性変異体,ドミナントネガティブ変異体M-Rasを発現させたが,いずれの場合にもRNA編集は影響を受けなかった.またNIH3T3細胞にトランスフェクトしたADAR1(p110)はセロトニン受容体5-HT2cRのA,B,C,DサイトのRNA編集を行った.この細胞にさらに野生型,恒常的活性変異体,ドミナントネガティブ変異体M-Rasを発現させたが,いずれの場合にもRNA編集は影響を受けなかった.またこれらのM-Rasの発現はADAR1(p110)の核小体への局在化に影響しなかった.以上の結果から,M-RasはADAR2によるGluR2のQ/R部位のRNA編集やADAR1(p110)による5-HT2cRのA,B,C,DサイトのRNA編集の制御にはかかわっていないようである.しかしインターフェロン誘導性のADAR1(p150)によるウイルスRNAの編集を制御している可能性が考えられる.
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