真正粘菌(Physarum.polycephalum)を用いたタンパク質発現系の開発のため、昨年度に引き続き発現ベクターの導入法を検討した。通常の方法では変形体へのDNA導入効率の改善が困難であったため、真正粘菌に特有の現象を利用した方法を試みた。粘菌変形体は表面に傷が生じると細胞質が一時的に露出し、その後速やかに細胞膜が形成される。この際に外来DNAを導入することを試みた。現在のところ導入DNAを定量的に回収するには至っていないが、導入方法としては極めて簡便であることからこの方法の完成をさらに目指している。 タンパク質発現系の確立にはベクター開発以外にも、発現タンパク質の精製、発現量測定、活性測定を定量的にかつ容易に実施可能とする必要がある。昨年、粘菌変形体や乾燥休眠体には、SDS電気泳動後にゲル内活性測定が可能なアルカリホスファターゼが存在することを発見した。その後分子量約100kDaの酵素の精製に成功し、詳細な性質を明らかにした(論文投稿準備中)。この酵素は非常に安定で、SDS電気泳動後に切り出したゲル中で電気泳動前の半分以上の活性を回収することができた。今後、この酵素の分子クローニングと遺伝子構造の解析を進め、ホスファターゼ遺伝子の下流に様々な任意の遺伝子を連結したコンストラクの作製も計画している。その際に連結部分に既知のプロテアーゼ感受性部位を介在させる予定である。これらの手法が開発されれば、発現タンパク質をSDS電気泳動後にゲル内定量するという画期的な方法も可能となり、プロテアーゼを使用することによって発現タンパク質の非常に簡便な精製法も実現することになる。
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