ロドプシンは動物や古細菌に存在する光受容蛋白質であり、レチナール発色団の光異性化反応を利用して光をエネルギーや情報へと変換する。レチナール分子を取り囲む蛋白質反応場がレチナールの電子状態を制御する結果、我々はさまざまな色を見ることができるのである。蛋白質場のはたらきを人工的に再現することはきわめて困難であったが、最近、粘土層間を用いて蛋白質と同じようなレチナール分子の波長制御が可能であることが報告された。そこで本研究では、粘土層問においてどのようなメカニズムでレチナール分子の波長制御が可能になっているのか明らかにすると同時に、異性化・プロトン移動といったロドプシンにおける機能の発現を粘土層間という新しい反応場において試みる。本年度は、特に色覚に関わるような波長制御といった観点から研究を行った結果、以下の成果を得た。 これまで粘土層間を界面活性剤で修飾し、疎水性と親水性の両方をもつ層間だけにロドプシンの発色団であるレチナールシッフ塩基がインターカレートされると考えられてきた。しかしながら、我々はベンゼン中でレチナールシッフ塩基と直接、加えることにより粘土層問への導入と可視領域の吸収の発現に成功した。そしてモンモリロナイトという粘土の産地に依存して色が変わることを発見した。この成果は蛋白質が行っている色覚の波長制御を、初めてそれ以外の系で実現したことに他ならず、現在、原著論文を投稿中である。 一方、粘土層問のコントロールとなる蛋白質反応場での光反応の研究は順調に伸展させることができ、2006年に15編の原著論文を報告した。また、平成18年度には9件の国際会議における招待講演を受けている。
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