熱受容体タンパク質TRPVファミリーにはV1からV4までのサブタイプがあり、それぞれ応答する温度範囲が異なる。このうちV1は43℃以上の侵害的な熱に応答し、温度以外に辛味成分であるカプサイシンでも活性化され、主として神経細胞に発現している一方、V4は43℃以下のマイルドな温刺激で活性化され、神経ではなく皮膚の細胞に発現している。 これまでの細胞レベルの研究では、溶液温度を変えることで熱刺激を与えているが、赤外線を直接浴びる皮膚においては、タンパク分子と赤外線の直接的相互作用も想定される。本研究では、TRPVファミリーの温度受容機構と体温調節における役割、特に環境中で直接赤外線を受容するであろうV4に注目し、野生型およびTRPV4を遺伝的に欠損させたノックアウトマウスを用いて基礎的検討を行った。 マウス皮膚に赤外レーザーを照射し、サーモグラフィーで皮膚温度をモニターし、43℃以上55℃以下の刺激を「熱刺激」、43℃以下の刺激を「温刺激」とした。用いたレーザーは波長830あるいは652nmの半導体レーザーで、150または300mW、15分間連続照射した。 TRPV1は高濃度のカプサイシンにより、脱感作を起こす。正常マウスでは、「熱刺激」でも「温刺激」でも深部体温は変化しなかったが、カプサイシンを塗布した野生型マウスでは、「熱刺激」で体温が上昇した。このことは、熱刺激情報がTRPV1を介して中枢に伝わり、体温調節機構にフィードバックされることを示す。一方、TRPV4ノックアウトマウスでは、「温刺激」のみでも体温上昇が起こった。このことから、マイルドな環境温度増加に対する体温調節にTRPV4が関与していることが示唆された。今後、みらくる20からの広範囲の赤外線を分光照射し、作用スペクトラムから特異的応答波長の有無を検討する。
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