今年度は、金属結合タンパク質であるメタロチオネイン(MT)を標識として融合させた標的タンパク質が大腸菌で発現可能であるか、また培養液中に加えた金属イオンを細胞質内で発現したMTが取り込むことができるか、さらにMTによって形成された金属クラスターが電子顕微鏡で観察可能であるか、検討を行った。 まず、マウス腎臓のcDNAライブラリーからMTをクローニングした。MTを1〜5個直列につなげ、MTのN末端側で標的タンパク質と融合させたコンストラクトを大腸菌発現用のベクターに組み込んだ。標的タンパク質としては、神経細胞の後シナプス膜肥厚部の足場タンパク質であるPSD95を用い、精製を容易にするためにC末端側にFLAGタグをつけた。MT融合PSD95はいずれも、カドミウム(Cd)を添加した培養液中でも、低温下で大腸菌を培養することにより、大量に発現させることができた。電子顕微鏡で観察可能な金属クラスターの形成には、Cdの場合少なくともMTが3分子以上必要であるという予測を立て、PSD95-3MT-FLAGに関して詳細な検討を行った。Cdを含む培養液中にて大腸菌で大量発現させたPSD95-3MT-FLAGを、抗FLAG抗体カラムと陰イオン交換カラムを用いて精製した。この精製PSD95-3MT-FLAGの吸光度を測定したところ、CdがMTに結合したときに見られる254nmのピークを確認することができた。さらに、実際に何個のCd原子がMTに結合しているかを確認するために、原子吸光光度法により精製したタンパク質に含まれるCdの濃度を定量したところ、MT1分子当たり平均4.5個のCd原子が含まれていることが分かった。そして、精製PSD95-3MT-FLAGを電子顕微鏡で、無染色状態で観察したところCd原子クラスター由来と思われる黒い粒を確認することができた。
|