本研究は、電子顕微鏡で観察可能な細胞内分子標識法を開発することを目的とした。昨年度は、金属結合タンパク質であるメタロチオネイン(MT)3分子をラベルとして標的タンパク質であるPSD-95に融合させ(PSD-95-3MT)、Cd^<2+>と結合させたタンパク質を電子顕微鏡で黒い粒として確認した。本年度は、この標識タンパク質の細胞内での観察を試みた。 まず、添加するCd^<2+>が細胞毒性を示さない濃度と添加時間を決定した。同時に海馬初代培養細胞での発現効率が高いアデノウイルス(AdPSD-95-3MT)を用いた遺伝子導入系を確立した。Cd^<2+>を結合したPSD-95-3MT由来のコントラストを見逃さず捉えるために、細胞は重金属等による染色を行わない状態でPSD-95-3MTを高発現した神経細胞を電子顕微鏡で観察した。その結果、細胞内に黒い塊が多数認められた。無処置、AdPSD-95-3MT処置のみ、またはCd^<2+>処置のみの神経細胞では、このような黒い塊は認められなかった。以上の結果より、細胞内で発現しCd^<2+>を結合したPSD-95-3MTは、電子顕微鏡で観察することが可能であることが分かった。次に、3MTとの融合がPSD-95のシナプスに集積する性質や、NMDA受容体NR2Bサブユニット、Kv1.4および神経型一酸化窒素合成酵素と結合する性質に及ぼす影響について検討した。その結果、PSD-95-3MTはPSD-95と同様に、シナプスに集積し、本来の結合パートナーと結合できることが確認できた。 こうして、標的タンパク質に融合させた金属結合タンパク質による金属クラスターが、ラベルとして使用できるかどうかの実証的な実験を行い、電子顕微鏡法における新規の分子標識手法として確立できた。これらの結果を2報にまとめ、Journal of Electron Microscopyに投稿中である。
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