キノコなど真菌類では一般に接合後、雌雄のhaploid核が共存したdikaryon細胞として増殖する。dikaryonの2核をそれぞれ分配する細胞分裂機構は、生物材料の方法論的制約から解析できていなかったが、分裂酵母がdikaryonとして増殖可能なことを私は見いだし、本研究でこれを材料にdikaryonの分裂機構の解析を進めている。 1、dikaryonの核分裂:2組の紡錘体は縦列して伸びるが、分裂後期の中程で速やかに平行に並んで内側の娘核の交換を行う。この娘核の交換制御機構を解析した。 結果:娘核の交換の開始は、アクトミオシン収縮環の成熟と時期的に一致していた。その機構にはSINと呼ばれる細胞質分裂の開始に働く情報伝達系の新たな機能が関係していた。 2、dikaryonの細胞質分裂:2つの核分裂に対応して隔壁は2枚できてよさそうに思えるが、1枚しかできないのはなぜか。 結果:2つの核のSPB(中心体、分裂開始時のアクチン繊維の形成起点)が分裂前に隔壁形成予定面で会合していた。これはアクトミオシン繊維を1つの収縮環として収斂させるために必要と思われる。 3、2核を近接させる機構:マイナス端指向性キネシンKlp2が2核を近接させると同時にdikaryonの増殖に必須であることは先に見いだしていた。さらに核に作用する力とその制御を解析した。 結果:分裂酵母では核を細胞中心に位置させる機構が提示されているが、この機構で2つの核がそれぞれ細胞中央に集合するのではなく、核間に架橋された微小管をKlp2が牽引していることが示唆された。 4、dikaryonの分裂機構の進化的保存性:他の菌類の本来のdikaryonを分裂酵母のdikaryonと比較した。 結果:アワビタケの分生子は、キノコとしては例外的にdikaryonのみの分生子であった。この分生子形成過程の細胞においても2核は近接していた。
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