研究概要 |
ポストゲノム時代に入り、生細胞で蛋白質の機能を解明することの重要性が増してきた。現在、蛋白質の機能解析には、細胞全体の蛋白質発現を低下させる、遺伝子ノックアウト法やRNAi法が広く用いられている。一方、単一の蛋白質が細胞内の異なった領域や細胞周期の特定のステージで、独自の機能を果たすことも分かってきた。しかし,従来の蛋白質の機能阻害は細胞の全体で起こり、特定の領域やステージでの蛋白質の機能を解析することは困難であった。われわれは、光の非線形効果を用いて、生細胞の任意の領域において、ナノレベルの空間分解能で、蛋白質機能を特異的に阻害する方法を開発した。機能阻害の対象とするターゲット蛋白質を、蛍光蛋白質であるenhanced green fluorescent protein(EGFP)との融合遺伝子として、ターゲット蛋白質を発現していない培養細胞に発現させ、融合蛋白質を可視化しながら、その機能の解析を行った。次に、EGFPを超短パルスレーザー(λ850nm)によって多光子励起し、EGFPで標識された蛋白質の機能変化を調べたところ、EGFPと融合したターゲット蛋白質の機能は、照射後直ちに低下することが見出された。また、この蛋白質機能の不活性化に、EGFPが多光子励起された際に放出するフリーラジカルが関与していることを確認した。今回開発した多光子励起による高い空間分解能を持つ蛋白質機能の制御法は、生細胞の限られた領域における蛋白質機能解析に非常に有用であると考えられる。
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