イモリの再生の脱分化過程で分化細胞は再び多能性と増殖能を獲得する。この過程で体細胞核のリプログラミングが行われていると考えられる。一方、卵への核移植による体細胞核のリプログラミング過程で、体細胞型リンカーヒストンH1は卵母細胞型リンカーヒストンB4に置換される。この置換は核移植による核のリプログラミングに重要な役割があると考えられている。これまでの研究でイモリのレンズ再生過程で、脱分化過程の虹彩色素上皮細胞(PEC)の核に、カエル(Xenopus laevis)のB4抗体に反応する抗原が出現することが明らかになっている。分子的特徴からこの抗原はB4であることが強く示唆されたが、証明には至らなかった。本年度はイモリのB4遺伝子のクローニングに成功し、RT-PCRによりB4遺伝子が脱分化過程のPECで発現することを証明した。 昨年度、B4遺伝子がクローニング出来なかった原因として、B4遺伝子が長い非翻訳領域を持つことが考えられた。そこで本年度はランダムプライマーにより卵巣cDNAライブラリーを作成した。このライブラリーのESTを行ったところ、カエルB4に一部相同性をもつクローンが得られた。さらにRACEを行い、イモリB4の全長配列を得ることに成功した。そしてRT-PCRによりPECの脱分化過程でB4 mRNAが発現することが明確に示された。 本科研費研究でイモリの脱分化過程における卵母細胞特異的リンカーヒストンの発現を明確に示せたことは大きな成果であった。これは卵母細胞特異的と考えられていたリンカーヒストンB4が体細胞核に出現すること示した最初の報告であり、細胞の可塑性に関わる体細胞核のリプログラミング機構を理解する上で極めて重要な発見と思われる。
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