ナナフシ類には翅が退化した種が多く存在するが、無翅種と翅を持つ有翅種との系統関係は必ずしも明確ではない。すなわち進化の過程で複数回独立に翅を失った可能性があるが、その原因となっている遺伝子の変異については不明である。本研究では系統的に近縁な種の間で翅形成に関わる遺伝子群に起こった変化を解析をすることにより、翅の退化に関与している遺伝子を探索、解明することを目指している。 本年度は実験材料としたナナフシ類の系統関係を明らかにするために、ミトコンドリアDNAの配列決定を試みた。有翅種としてニホントビナナフシおよびタイワントビナナフシ、無翅種としてナナフシモドキ、アマミナナフシ、エダナナフシ、ミナミエダナナフシ、トゲナナフシ、コブナナフシの採集を行った。これらの個体からDNAを抽出し、適宜プライマーを設計してミトコンドリアDNAの部分配列を増幅し、その配列決定を行った。その結果、COX1、COX2、COX3、ND1、ND4、ND5、12SrRNA、および16SrRNAの全長もしくは部分配列の増幅に成功し、順次配列を決定した。 決定された配列情報をもとに分子系統樹を作成して、これらの種の系統関係を推測したところ、以下の点が明らかになった。(1)ナナフシモドキとアマミナナフシ、エダナナフシとミナミエダナナフシの近縁性がそれぞれ支持される。(2)Lonchodinaeとしてエダナナフシやミナミエダナナフシと同亜科に分類されているトゲナナフシは、むしろ別科のナナフシモドキやアマミナナフシと近縁で、これら3種でクレードを形成する。(3)供試種の中では唯一コノハムシ上科に属するコブナナフシは、他の7種を全て含むクレードに含まれる。 これらの結果から、ナナフシ目内の系統分類ははっきりしないものが多く、比較進化学的研究を行う際には、実験に用いる種の間の系統関係は先入観なく見直して明確にしておく必要があると結論できた。
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