生体内の種々の生命現象は体内時計(生物時計)によって制御されている。本研究では、脂質代謝調節の昼夜の差異について実験動物(ラット)で検討した。体内で過剰になったコレステロールは肝臓に運搬されてCYP7A1(Cholestero1 7alpha-Hydroxylase)によって水酸化反応を受け、次いで、CYP8B1によって胆汁酸に異化され十二指腸に排泄される。CYP7A1遺伝子の発現量は夜間に急激に高まったが、CYP8B1遺伝子の発現量は昼夜で大きな差異はなかった。肝実質細胞での脂質輸送にはATB依存性輸送蛋白質が関与し、ABCB4、ABCG5、ABCG8は何れもABC結合カセットスーパーファミリーに属している。肝実質細胞での胆汁酸輸送に関与するABCB11遺伝子やリン脂質輸送に関与するABCB4遺伝子の発現量には昼夜で大きな差異は無かったが、中性ステロールの輸送に関与するABCG5やABCG8遺伝子の発現量は夜間で著しく増大した。胆汁酸が充分に合成されると、過剰の胆汁酸は核内レセプターFXR(farnesoid X receptor)のリガンドとなり、核内レセプターSHP(small heterodimer partner)の転写を充進させてCYP7A1遺伝子の転写を抑制するが、核内レセプターFXR、SHP遺伝子の発現量は共に夜間で高かった。以上のことから脂質代謝に関与するCYP7A1、ABCG5、ABCG8、FXR、SHP遺伝子の発現量が昼夜で大きく異なったことより、これらの遺伝子は体内時計の支配を受けていることが示唆された。
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