マンゴスチンの花器発達過程に伴う胚のう形成過程およびその後の卵細胞の形成と胚乳の発達様式をパラフィンおよび樹脂包埋サンプルから切片を作成することで光学顕微鏡により、開花前から開花後まで経時的に観察した。その結果、子房内での胚のう形成は正常に行われ、さらに卵細胞も正常に分化していることが確認された。しかしながらその後、卵細胞が退化していくにもかかわらず、一部の胚のうでは胚乳が退化せずに発達を続けている場合があることを確認し、このような発達した胚のうをもっている子室(locule)が肥大し、単為生殖(アポミクシス)による種子形成を行っている可能性があることが示唆された。さらに、カンキツ類におけるアポミクシスでは、この開花前から開花期までの卵細胞分化とともに、珠心細胞からの不定胚の分化が認められることが報告されているが、マンゴスチンのアポミクシスの場合はこの段階では珠心胚の形成は認められず、一般的に他の植物種で認められているアポミクシス過程とは様相が異なることが明らかとなった。 さらに、マンゴスチン果実の発達に伴う子室内での種子の形成過程を実体顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて経時的に観察したところ、開花後数週間を経過した頃に珠心細胞の一部が発達して突起を形成し、その後、その突起が発達して細胞塊となって子室中で肥大していく過程を観察することができた。この細胞塊が発達したものが将来、種子となっていくことが示唆され、マンゴスチンのアポミクシスによる種子形成過程の特異性がより明確となった。 今後、マンゴスチンのアポミクシスによる種子形成過程の特異性をさらに調査することで、マンゴスチンで認められる新たなタイプのアポミクシスを明確にしていく予定である。
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