研究概要 |
果樹の地上部に局所的に接ぎ木した生長特性の異なる穂木からもたらされる生長促進シグナルの地下部への伝達と,そのフィードバックによって誘導される地上部の生長制御の可能性を明らかにすることを目的として以下の実験を行った. 1.モモ多低温要求性品種‘八幡白鳳'の2年生個体に少低温要求性品種‘福州'のえき芽を,少低温要求性品種‘福州'の2年生個体に多低温要求性品種‘白鳳'のえき芽を,9月上旬に1個体あたり5芽を部分的芽接ぎ(パーシャルグラフティング)した.‘八幡白鳳'樹は自然低温遭遇500時間,1000時間の時点で,‘福州'樹は7℃以下の自然低温遭遇250時間,500時間の時点で加温ガラス室に搬入して,芽接ぎを行っていない個体と比較して,発芽を調査した.その結果,多低温要求性品種の発芽は,少低温要求性品種の部分的芽接ぎによりほとんど影響を受けなかったが,部分的芽接ぎした少低温要求性品種の芽の発芽は,芽接ぎしていない少低温要求性品種の樹に比べ大きく遅れた.一方,少低温要求性品種に多低温要求性品種を部分芽接ぎすると,少低温要求性品種の発芽がやや遅れた.この場合,部分芽接ぎした多低温要求性品種の発芽は全く観察されなかった.このことから,部分的に芽接ぎした多低温要求性品種の芽は,樹全体の初期生長を遅延させるシグナルをもつこと,一方,多低温要求性樹からは部分芽接ぎした少低温要求性品種の芽の発芽を強く抑制するシグナルをもつことが示唆された. 2.少低温要求性品種‘福州'について,低温遭遇500時間の時点で地下部の温度を恒温槽で2.5,5.0,7.5℃に調節し,地上部および地下部の生長を観察した結果,他の温度に比べ,2.5℃では新根の生長が抑制された.2.5℃区では発芽がやや遅れる傾向があった.
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