高等植物では卵装置が厚い胚珠組織で覆われているため、従来受精機構の解析が困難であった。しかし近年、単離した卵細胞と精細胞を直接融合させる試験管内受精技術がトウモロコシで開発され、高等植物でも接合子からの発生を生きたまま直接観察することが可能になった。本研究ではこの技術の汎用性の拡大と、高等植物受精機構の分子生物学的解明を目的とした。 植物材料には、花卉園芸植物として需要の高いアルストロメリアを用いた。アルストロメリアの成熟花粉は2核性で、花粉発芽後に精細胞が形成され、卵細胞と融合して受精が成立する。開葯後1日以内の花粉を人工発芽培地中で発芽させると、培養から7-8時間で雄原細胞が有糸分裂を開始し、9-10時間後には精細胞が形成されることが明らかになった。しかしながらこれら精細胞の視覚的識別にはDAPIによる染色を必要とし、そのため単離して受精に利用しても、染色剤がその後の発生にネガティブな影響を及ぼすことが懸念される。そこで精細胞で発現する遺伝子にgfp遺伝子を融合させ、GFPによる視覚的識別を試みることにした。まず、ユリの雄原細胞で発現する遺伝子であるLlGlsA遺伝子オーソログの単離に着手した。アルストロメリア成熟花粉より抽出したtotal RNAよりcDNAを合成し、ディジェネレートプライマーを用いてRT-PCRを行った結果、glsAのオーソログと考えられるサブクローンの取得に成功した。現在この配列を元に特異的プライマーを構築し、RACE法による全長配列のクローニングを試みている。
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