高等植物の受精では2つの精細胞がそれぞれ卵細胞、中央細胞と融合する重複受精が行われる。受精後の接合子が正常な個体発生を行うためには、先だって正常な雄性および雌性配偶子の形成が必須となる。 本研究では、高等植物の雄性配偶子形成時に機能する遺伝子の単離と発現解析を試みている。植物材料には、花卉園芸植物として需要の高いアルストロメリアを用いた。ユリの雄原細胞で発現するLlGlsA遺伝子のオーソログのクローニングに着手した昨年度に引き続き、本年度はRACE法によって全長配列を決定し、AaGlsA遺伝子とした。LlGlsAと比較して、アミノ酸の相同性が72%と高く、さらにGlsAが機能するために必要と考えられているJドメインも保存されていたことから、AaGlsAの機能も保存されていると考えられる。サザン解析の結果、AaGlsA遺伝子はアルストロメリアゲノム上に1コピーしか存在していないことが明らかになった。また、蕾の生長過程において、各生殖器官(雄蕊、雌蕊、花弁)における発現の変化を調査したところ、ある特定の生長ステージ以降の雄蕊組織で、顕著に発現が上昇することが示された。この発現が上昇するステージと、花粉内での雄原細胞の形態が変化する時期がほぼ同時であることから、AaGlsAは雄原細胞の形態形成に何らかの役割を担っていると推察された。 現在は、さらに詳細な発現解析を目的として、AaGlsAのプロモーター領域のクローニングを試みている。
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