先に、ナシ黒斑病菌のAK毒素生合成遺伝子クラスターから毒素生産性を抑制するAKT7遺伝子を見出した。AKT7はcytochromeP450様タンパク質をコードし、その変異株ではAK毒素生産量が著しく増加する。本課題では、AKT7産物(Akt7)の生化学的機能を明らかにするために、以下の研究を実施した。 1.ナシ黒斑病菌のAKT7破壊株とAKT7高発現株を用いた機能解析 野生株、AKT7破壊株およびAKT7高発現株について、AK毒素の前駆体であるエポキシデカトリエン酸の生産量を定量解析した。その結果、AKT7破壊株とAKT7高発現株では、エポキシデカトリエン酸生産量がそれぞれ増加または減少し、エポキシデカトリエン酸またはその前駆体がAkt7の基質であることが強く示唆された。また、これら菌株の培養液中の代謝産物を薄層クロマトグラフィーによって比較解析し、野生株に比べAKT7破壊株で減少、AKT7高発現株で増加する物質、すなわちAkt7の反応産物候補を見出した。さらに、基質同定に向けて、大腸菌発現システムを用いて組換えAkt7タンパク質を調製した。 2.イチゴ黒斑病菌とタンゼリンbrown spot菌のAKT7高発現株を用いた機能解析 ナシ黒斑病菌のAK毒素イチゴ黒斑病菌のAF毒素およびタンゼリンbrown spot菌のACT毒素には、エポキシデカトリエン酸が共通な部分構造として存在する。しかしながら、イチゴ黒斑病菌とタンゼリンbrown spot菌にはAKT7オルソログが存在しない。AKT7高発現ベクターをイチゴ黒斑病菌とタンゼリンbrown spot菌に導入し、AKT7高発現株を作出したところ、高発現株では毒素さらにエポキシデカトリエン酸の生産性が著しく減少することが明らかとなった。この結果は、エポキシデカトリエン酸またはその前駆体がAkt7の基質であることをさらに示唆した。
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