研究概要 |
ミツバチをコロニーから隔離して単独で飼育すると,学習能力が著しく低下する.このことから,ミツバチの脳の機能的な発達には,コロニー内の社会的な刺激が重要であると考えられる.本研究課題では,単独飼育個体とコロニー内で飼育した個体問で脳における遺伝子発現パターンを比較し,社会的刺激依存的に発現量が変化し,記憶や学習などの脳の高次機能に関与する遺伝子を検索・同定することを計画した. 1)平成18年度は,単独飼育した個体とコロニー内で育った個体について,昆虫脳の高次中枢である脳キノコ体における遺伝子発現をディファレンシャルディスプレイ法(DD法)で網羅的に比較した.その結果,major royal jelly protein 1(MJRPI)が対照区の個体で特異的に発現していることが示唆された.DD法では擬陽性の結果が得られることがあるため,逆転写定量PCR法によりmjrp1の発現がコロニーで飼育したハチで有意に高いことを確認した.MJRPはローヤルゼリーの主要タンパク質であるが,多機能性のタンパク質であることが知られており,脳の高次機能にも関与している可能性が考えられる. 2)脳内で発現する遺伝子の機能解析を行うため,エレクトロポレーション法による脳への遺伝子導入の条件の最適化を行った.実験に供する個体の日齢,電極の当て方,電圧,通電時間等の条件を検討し,最終的に遺伝子導入処置を施した個体を用いて学習実験ができる条件を見つけることに成功した.条件刺激となる特定の匂いと,吻伸展反射を組み合わせた連合学習実験において,遺伝子導入処理を施した個体でも無処理の個体と同レベルの学習率が得られた.
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