研究課題
世界に広く分布する酸性土壌が抱えるアルミニウム(Al)障害の克服は植物生産の最も取組むべき課題の一つである。これまでの多くの蓄積をもつAl研究者の成果により近年、小麦などの耐性植物の根からAlとキレートを形成する有機酸分泌機構の分子応答解明が進んでいる。ところが多くの耐性植物が有機酸分泌という戦略で説明される一方で、小麦やイネなどの耐性植物よりもさらに強い「超」Al耐性植物種が見出され、有機酸分泌では説明のつかない新たな戦略を推測させる報告が得られている。申請者は熱帯イネ科植物のBrachiaria属(シグナルグラス、ルジグラス)に非常に強い耐性を見出したがその戦略は明らかでない。本研究はBrachiaria属の根から分泌する化合物群を発見し、その分離同定と耐性機構を蛋白レベルで解明することを目的とした。シグナルグラスはルジグラスよりもさらに耐性に優るがこれらの植物と共にAl耐性に優れるとされるエンバクをあわせて供試し、200μMのAl溶液で成育を比較したところ耐性の強い順位はシグナルグラス、ルジグラス、エンバクとなった。Brachiaria属は成育の過程で以下の特徴が認められ、これらの生理的特徴は耐性に関わると推察された。1、Brachiaria属は根のMg蓄積がストレスで促進される。CaとMgはAlストレスで根の蓄積が大きく低下するのが通説であるがBrachiaria属はMg集積が促進され、特にシグナルグラスで著しい。2、ルジグラスは根から蛍光反応を示す物質の分泌が著しく、液体クロマトグラフによる検出条件からケイヒ酸とケルセチンが含まれると推定した。これらフェノールまたはフラボノイド化合物はAlと錯体形成し易いので耐性戦略として機能すると推測した。3、次にもう一つのBrachiaria属であるシグナルグラスはルジグラスよりも強い耐性を示すが根の先端部分に特異的に発現するペプチドが数種検出され、QqTOF hybrid LC/MS/MS systemによるアミノ酸のシーケンスから、Glutamate Ammonia ligase とUDP-glucose : protein tansglucosylaseが同定された。以上より超Al耐性を示すBrachiaria属の根分泌物とペプチド発現について特異的な戦略応答が明らかになったので、今後これらの機能性解明について研究を進展させる計画である。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
World Congress of Soil Science, Frontiers of Soil Science 18
ページ: 84