前年に引き続き、偽遺伝子と予想されたtpnAの5'非翻訳領域(5'UTR)のイントロン内に存在するチアミンリボスイッチ様配列の機能を検証するため、nmtAプロモーターの下流にtpnAの5'UTRおよびGUS遺伝子を連結し、ノーザン解析及びGUS発現解析を行ったところ、GUS活性はチアミン制御を受けていたが、転写はチアミンの有無にかかわらず同程度のレベルであった。一方、転写産物のRT-PCR解析によりチアミン存在下でもリボスイッチ様配列を含む介在配列はイントロンとしてスプライシングされていた。このことは、転写と翻訳とが独立に制御されていることを示唆しており、今後の検討が必要と考えられた。またEST解析の結果、tpnAはゲノム解析により上流に存在すると考えられる遺伝子を含んだmRNAとして転写されていることが認められたことから、真核生物ではまれなポリシストロン構造をとっている可能性が示唆された。そこで、他のAspergillus属カビのゲノム情報と比較することによって上流の遺伝子の妥当性も含めて構造を解析したが、他のカビには遺伝子に相当する配列は見出されず、i麹菌においてのみこの遺伝子が存在することが示された。興味深いことに、上流の遺伝子からの転写産物ではリボスイッチ様配列を含む介在配列はイントロンとしてスプライシングされておらず、3'UTR領域に存在するリボスイッチは機能しないことが考えられた。このことは、すでに明らかにしているように、3'UTRにリボスイッチが存在してもチアミン抑制は起こらず、5'UTRまたはN末に近いコード領域にリボスイッチを内在したイントロンが存在することがチアミン制御に必要であることと一致する。
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