研究課題
脂肪組織は、間葉系、内皮、肝、膵、視神経に分化できる幹細胞を多量に含んでいる。これを移植すると、頭蓋欠損が再建され、虚血心臓や骨格筋の症状が改善する。では、「何故、脂肪に幹細胞が集まるのでろうか?」また、「何故、脂肪の幹細胞は暴走しないのであろうか?我々は、i」成熟脂肪細胞の天井培養系をコマ撮りビデオ撮影して、幹細胞が成熟脂肪細胞に引き寄せられて表面を遊走している顕微鏡像を捉えた.ii」3T3-L1脂肪細胞が分化に伴って分泌するラミニン-8(α4β1γ1)の構成鎖のα4鎖のG領域が生体内で切断されることを確認した。iii」可溶化基底膜(Matrigel)とFGF-2をマウスに皮下注射して脂肪新生を誘発する系にα4鎖G領域断片を添加すると脂肪新生が抑制されることも発見した。iv」α4鎖G領域が強いヘパリン結合活性を持ち、細胞表面のシンデカンを介して細胞接着力を生み出すことも示した。これらの知見を総合し、体内随所にあるラミニンのα鎖G領域が切断され、これが幹細胞表面のシンデカンに結合してFGF-2等のヘパリン結合性増殖因子のシグナルを遮断して幹細胞の増殖・分化を抑制している可能性を以下の解析で検討した。1)脂肪組織から分離した幹細胞は、フィブロネクチン被覆した培養皿上で、2%のウシ胎児血清とFGF-2を含む培地中で増殖する。しかし、ラミニンα4鎖G領域断片で被覆すると増殖は抑制された。すなわち、FGf-2の増殖シグナルがシンデカンに結合するα4鎖のG領域で遮断されることが示された。2)脂肪組織から採取したばかりの幹細胞は血球系幹細胞や内皮幹細胞マーカーであるCD34陽性であるが、成熟脂肪細胞から離れて増殖をはじめるとCD34陰性になる。ところが、このCD34陽性形質は脂肪細胞上で重層培養すると維持されるた。すなわち、成熟脂肪細胞表面に幹細胞の分化を抑制する因子があることが示唆された。この因子がラミニンであることを特異抗体添加実験などで確かめようとしたが、今のところ結論を得るには至っていない。
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