小腸のパイエル板に存在する上皮細胞M-cellの直下には多数の免疫系細胞が存在することから、免疫系細胞と共培養することによって腸管上皮細胞をM-cell様に分化させることが可能と推定される。そこでまず、腸管上皮細胞としてヒト由来Caco-2を、免疫系の細胞としてヒト由来のRaji B細胞、Jurkat T細胞、単球系THP-1細胞などを用い、透過性膜上の腸管細胞と免疫細胞の相互作用の検討を行った。M-cell様活性の評価は、高分子(主として0.1μm径の蛍光ラテックスビーズ)の細胞層透過性を測定することによって行った。 まず、2週間培養したCaco-2単層の基底膜側にRaji細胞の培養上清を添加する手法で検討をおこなった。培養上清をそのまま添加するとCaco-2細胞層の障害が誘導されたが、培地で希釈することにより細胞の損傷誘導は抑制された。しかしながら、このようにして培養したCaco-2細胞層のビーズ透過性には明確な上昇は認められなかった。そこで、単層培養したCaco-2の基底膜側にRaji細胞を加えて実際に共培養する系で再度検討をおこなった。細胞数などを検討することにより、1週間程度共培養を続けてもCaco-2細胞層の損傷が起こらない条件を見出した。この操作によって共培養したCaco-2細胞層の一部には蛍光ビーズの透過性がコントロールの数倍になるものが見出された。しかし、その様な細胞層が観察される確率は2割程度であった。通常用いているコラーゲンの代わりにフィブロネクチン、ラミニン、マトリゲルなどのコーティング素材(ECM)の効果を検証した。一部のECMで改善が認められたが、再現性などに問題が残り、目的とする細胞の構築にはさらなる検討が必要である。
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