シリブカガシの塊根の機能解明を目的として、熊本県天草郡松島町の受蝕土壌地に分布するシリブカガシの生態を調査した。土壌の水分状態が異なる3地点で、計92個体のシリブカガシ低木を堀りあげたところ、全個体に塊根が存在していることを確認できた。塊根と他の器官とのアロメトリー関係では、乾燥がつよい場所に生育している個体ほど1個体当たりの塊根数が多く、とくに地際直径が1CM未満の個体では湿潤な場所より個体あたりの塊根総重量が大きく、かつ根全体重量に対する塊根重の比率(塊根比)も高かった。この塊根比が、乾燥ストレスのひとつの指標ともなる葉面積比(SLA)と負の相関を示したことからも、地点間での相対生長関係の違いには乾燥が大きく影響していることが推察できた。乾燥地の個体の大部分は、地際部の形態から萌芽更新で生き延びていることが明らかであった。すなわち、これらの観測・観察から塊根が乾燥に対する水分貯蔵機能と萌芽更新に対する養分貯槽機能として働いている可能性が高いことが示唆された。このことを検証するため、同地区内において、シリブカガシ72個体を対象として葉のむしりとりと幹の切断処理を行い、その後の再生に対する塊根の貢献度を観測した。春に処理し秋にほりあげて塊根を観測した結果、無処理個体にくらべ処理個体の塊根重量が減少していることが判明した。また、その塊根重量の減少量が個体の再生量と正の相関を示したことから、塊根の養分が処理後の再生に貢献しているものと推測できた。塊根を持たないアラカシ33個体を対照種として同様な処理実験をしたところ、幹の切断処理ではシリブカガシの方が再生力が高いことを確認した。塊根が個体の再生に対し養分資源の供給源になっていることを検証するため、同属のマテバシイを対照として、同様な処理実験を2006年3月に開始した。
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