研究目的は、シリブカガシの塊根特性を記録し、生育環境に対する適応戦略としての意義を解明することである。本年度は、1)天然林でのシリブカガシの萌芽更新力、2)塊根による撹乱耐性力、3)1年生実生の耐乾性評価に焦点をあてた。 1)シリブカガシの優占度が高い広島県広島市二葉山と熊本県天草郡松原町千巌山の天然林において、幼木個体の萌芽実態を観測した。二葉山では、個体高が高くなるに伴い萌芽率が増大し、60cm以上の個体では平均80-90%の高い値を示した。さらに、個体高が120cm以上の個体では、主幹と同齢と推察できるシュート群(コホート)とは世代が明瞭に異なる若い萌芽シュートをもつ個体割合が70%と高かった。千巌山においても、樹高1m以下の個体の萌芽率は78%、1m以上では91%と高かった。これらの結果は、シリブカガシの高い萌芽力が少なくとも幼木期での生存率に大きく影響していることを示唆した。 2)塊根を持つシリブカガシと持たない同属のマテバシイとの撹乱耐性を比較するため、栽培実験を昨年度に実施した。今年度は、その2年目の生育状況を把握するため2007年10月に堀上げ調査を実施し、各器官のサイズと重量を観測した。今後の解析において、土壌と照度の各2段階の組み合わせによる環境の違いを考慮に入れ、撹乱後の再生力の差からシリブカガシの塊根の撹乱に対する機能を評価する。 3)光と水分条件が異なる3種の環境下で生育させたシリブカガシ1年生実生のアロメトリーを観測した。また、それら1年生実生を用いて、塊根切除した個体と無処理個体を10ヶ月間無潅水状態で栽培し、個体の生死の時間変化を観測した。今後の解析において、アロメトリーの環境間での比較を通じての塊根の機能特性評価、無潅水下での枯死率の時系列変化から塊根が耐乾性に果す機能を評価する。 3年間の研究成果を学術論文で公表する。
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