本研究では、木材腐朽菌による木材細胞壁の初期攻撃に関与する菌体外での活性酸素の生成を阻止することにより木材防腐を達成することを目的とした。このため、鉄の還元抑制能をもつキレーターを用い、木材腐朽菌の生育抑制効果があるかを試験した。試験の対象は、白色腐朽菌Ceriporiopsis subvermisporaが産生するceriporic acidBとその誘導体、および市販の鉄キレート剤とした。 はじめに、アルキルイタコネート(ceriporic acid)の鎖長の異なるアナログを化学合成した。合成は、α-ブロモメチルフマレートのグリニアル反応を用いた。合成したアナログは、フェントン反応による水酸化ラジカル生成抑制能と、鉄(III)の還元能を分析した。鉄(III)の還元能は、酸素の吸収速度および鉄(II)への配位により呈色するBPSを使用した。また、NTAをはじめとする各種の市販の鉄キレーターによる鉄(III)の還元抑制能を測定した。 次に、白色腐朽菌カワラタケおよび褐色腐朽菌オオウズラタケを、鉄キレーターを含浸させたブナ木片に植菌し、所定の時間培養した。菌の生育状態の観察と、腐朽後の木材の重量減少率により、鉄キレーターによる腐朽阻害効果を検証した。その結果、これまでに腐朽抑制効果が報告されていない複数の化合物が、白色腐朽菌カワラタケおよび褐色腐朽菌オオウズラタケによるブナ材の腐朽抑制効果を持つことを明らかにした。しかしながら、これらの化合物の腐朽抑制に必要な濃度は、これまでに報告されている防腐剤に比べ高く、さらにスクリーニングを進める必要があるとの結論に至った。
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