病原体が保有する糖鎖構造の白血球による認識は、魚類感染防御の誘導・成立に重要であることがわかってきた。本研究は、培養下で白血球の異物包囲化を誘導するモデル(in vitro白血球包囲化モデル)を用い、異物包囲化を誘導する糖鎖認識機構の解明(糖鎖認識受容体および標的糖鎖構造の解明)を目指した。ニジマス腎臓由来白血球をin vitro白血球包囲化モデルに供し、各種糖類の包囲形成阻害効果を確認したところ、フコイダンおよびヘパリンの多糖類が白血球による異物包囲化を阻害した。本効果はフコイダンと事前に反応させた後洗浄した白血球を用いても認められたことから、ニジマス白血球膜上へのフコイダンの結合が包囲化の阻害要因と考えられた。フコイダンのニジマス白血球への作用について検討したところ、フコイダンの刺激によりIL-1βおよびTNFαの発現誘導が確認された。以上の結果から、ニジマス白血球膜表面にはフコイダン様糖鎖認識受容体が存在し、本受容体は異物包囲化の制御およびサイトカイン発現を伴う細胞の活性化に関与しているものと考えられた。包囲化試験の異物として用いるIchthyophonus hoferiに結合するニジマス白血球膜タンパクについて調べたところ、分子量約180kDa(非還元下)のタンパクがフコイダンにより結合阻害を受けた。また、フコイダンで刺激された白血球膜タンパクのチロシンリン酸化について検討したところ、類似サイズの膜タンパクでチロシンリン酸化を受けていることが示され、サイトカイン誘導等の活性化に関与するシグナル受容体であることが示された。以上のことから、分子量約180kDaの膜タンパクが魚類感染防御に関わる糖鎖認識受容体である可能性が強く示唆された。病原体(I.hoferi)が保有する標的糖鎖に関する知見は、本研究期間中に得ることはできなかった。現在、数種のレクチンを用い、標的糖鎖の特定を目指している。
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