岩海苔(Porphyra pseudolynearis)は独特な香りと風味を有し、海苔類の中でも高級なものとされている。乾岩海苔を焙焼後、温水に浸漬すると5'-IMPが急激に増加する現象が知られており、これにはアデニリックデアミナーゼ(ADase)の関与が示唆されている。乾燥、高温処理によっても、酵素のADaseが失活しないことは酵素学的に非常に興味深い。 本年度は、生岩海苔と乾岩海苔中のADase活性について検討した。まず、細切した生岩海苔と乾岩海苔を未処理、または焙焼(200℃・5分間)、温水浸漬(30℃・5分間)、およびエタノール浸漬(5分間)処理し、過塩素酸抽出法でエキスを調製した。その結果、乾岩海苔エキス中の5'-IMP含量を検討した結果、未処理試料に比べて5'-IMP含量は焙焼で約57倍、さらに温水浸漬で約560倍と急激に増加した。水分を付与することにより、ADase活性が賦活されることが推測された。試料中の5'-IMPの生成にはADaseが関与していることから、酵素の安定性を検討する目的でトリス酢酸緩衝液(pH6.5)を用いて上記の試料から粗酵素液を調製し、5'-AMPを基質とした酵素反応試験を行った結果、焙焼、温水浸漬、エタノール浸漬処理試料において5'-AMPが5'-IMPへほぼ100%変換し、ADase活性は消失していないことがわかった。一方、生岩海苔では、同様な処理を施した試料で5'-IMPへの変換は認められなかった。この結果から生岩海苔を乾燥させる過程でADaseを安定化させるなんらかの機構があると推定され、今後この機構について詳細に検討していく予定である。
|