農業関連の試験研究支出は、大きく公的支出と民間支出に大別される。1961年から1990年にかけて、国公立の農業試験研究費は、年率4.2%の増加率であったが、1990年から2003年には2.8%へ低下した。これに照応し、総合生産性指数(TFP)の伸び率も年率1.7%であったのが、1990年から2000年にかけて年率1.3%に低下した。特に2000年以降はTFPが低下しており、今後この傾向が続くのか否かが注目される。このように公的農業試験研究費の伸び率の低下がTFPの伸び率の低下の一因となっていることが示唆された。そこで計量経済学的モデルによってこのことを確認した。具体的には、TFPと公的農業試験研究費との関係をコイクラグモデル、合理的ラグモデル、多項式ラグモデルに基づいて推計した。その結果、農業試験研究支出はTFPに有意な影響を与えていたこと、多項式ラグモデルによれば、6期目のラグが総合生産性に有意な影響を及ぼしていたこと、1990年以後TFPの成長率は低下したもののRD効果には有意な変化が認められなかったこと、などが明らかになった。また、民間部門における研究開発のインセンティブを高めるための公共政策、特許、研究報奨金制度、契約制度などについて経済学的観点から考察を加えた。モデル分析においては、技術革新の価値が異なろうとも一律の特許期間を設けることの制度上の問題点や技術開発の静学的な効率性のみならず、動学的な効率性を考慮することの重要性を指摘した。農作物の品種改良における技術革新は累積的であるので、動学的視点から効率性を分析することはきわめて重要といえる。
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