研究概要 |
平成18年度の研究実績の概要は次のとおりである. まず,ボックス・コックス変換により一般化された関数形をもつ新しい消費者需要システムを提示した.本モデルは,すべてのクラスの代表的消費者モデルを特殊ケースとして包含し,その価格指数(デフレーター)は,トランスログ型や一般化レオンチェフ型を含むすべての2次のテーラー級数型価格指数を包含している.そのため,価格変動と総支出変動の両方を,Almost Ideal Demand Systemを含む既存の代表的消費者モデルよりも柔軟に捉えることができる.通常,モデルの一般化によって関数形は複雑になる傾向があるが,本研究で提示する新モデルは,高度な一般化を実現していながら,その関数形は比較的シンプルで解釈と実装が容易である. 次に,三角関数形式のエンゲル曲線をもつ消費者需要システムを,初めて実証モデルとして定式化し推定した.本モデルはいくつかの魅力的な性質を備えている.第一に,需要モデルとして望ましい性質であるフレキシビリティ,および異なる総支出水準の消費者間での一致集計条件を満たしている.第二に,既存のモデルにはない優れた性質として,エンゲル曲線が三角関数形式で表現される点がある.一致集計条件を満たす既存の需要システムのエンゲル曲線は,通常,総支出の2次関数または対数2次関数(およびそれらの特殊ケースとしての(対数)1次関数)として表される.三角関数形式のエンゲル曲線は振動して変曲点をもちうるため,既存のエンゲル曲線では捉えきれない総支出水準の変動を把握することが可能である.また,バウンドをもつという三角関数の特性により,新モデルは既存の需要システムよりも広いレギュラー・リージョンを有しており,理論的制約条件を満たす可能性がより高い.
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